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「こんばんは~、松本さん居てはりますか~?」
「留守です」
「おっじゃまっしま~す」
「ちょっと!留守だって言ったでしょ」
「留守のうちからなんで返事返ってくんの」
「いい加減に毎日うちに来るのやめてよね」
「なんで?」
「迷惑なの」
「なんで?」
「あんた副隊長になるんでしょ?変な噂たったら困るじゃない」
「そんなん今更やん。全然困らんよ」
そんなことを言いつつも、お茶を入れる準備をしてくれている乱菊に、自然頬が緩む。
台所に立つ乱菊の後ろ姿が愛しい。何をしていても好ましいのだけど。
そう思って、後ろから抱き着いてみた。
「ちょっと、邪魔」
「うん」
「うん、じゃないでしょ」
「うん」
抱きつかれながら、そういえばこんなふうに甘えてくるのは久しぶりだなと思った。
毎日来ることは来るのだが、お互い仕事が忙しいし、本当に顔を見るだけで帰っていく日もある。
あのあばら屋に住んでいたころは毎日のようにお互いに触れていたのに。
「ほら、お茶入ったわよ」
「んー」
名残惜しげに乱菊から手を離れた。
お茶を飲んでいる間もずっと髪を指に絡めて遊んでいる。
今日は相当甘えたいみたいだ。
ギン、と名前を呼んで、ポンポンと膝を叩いた。
「乱菊?」
「いいよ、寝ても」
たぶん言わなくてもそのつもりだったんだろうけど、すごく嬉しそうにギンが笑うから私はまたギンを甘やかしてしまう。
子供みたいに膝の上に頭をのせるギンの髪を梳いてやる。
乱菊はいつも膝に頭をのせると髪を梳いてくれる。膝枕も気持ちいいけど、これも相当気持ちいい。
この指先から伝わるものが、僕が抱えているものと同じものならいいと思う。
腰に腕を絡めると、調子にのるんじゃないわよ、と頭を軽くはたかれた。
それすらも僕を喜ばせるものでしかないことを乱菊は気づいているのだろうか。
「僕が眠るまで、ずっと髪すいててな」
はいはい、と微笑む彼女は僕の全てを溶かしていく。
このまま、この暖かいものに包まれてどろどろに溶けてしまえばいいのに。
いつか最期のときが来るなら、今がいいと言ったら、また彼女にはたかれるだろうか。
ほんとはこういうほのぼのが書きたかったんですよ。
昨日はそういうノリじゃなかったってことで。