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このまま眼を閉じてしまえば全てが終わる。この非力な強さで抗い続ける日々に、終止符を打てる。
そう思って眠りに付いた日の次の朝、あいつは必ず必ず帰ってきた。
まるで私が逃げていくのを阻止するように。私が現実から目をそらさないように。
「ただいま、乱菊」
もう、おかえり、と言ってやる気さえ起きない。なのに、口から滑り出す言葉は、
「おかえり、ギン」
あぁ、まただ。どうして、私は、おかえり、と言ってしまうのだろう。
これさえ言わなければ、こいつはもう帰ってこないと思うのに。このまま逃がしてくれると思うのに。
もう、こいつに言語機能まで侵されたと思うしかない。
いまや私の持つ全ての中で、こいつからかろうじて逃れているのは、この思考だけ。
それすらも、もうすぐ完全に侵される。
その前に逃げなきゃ。遠くまで。できるだけ遠くまで。
ここにいてもいい、なんて、考えに侵される前に。
ギンが出ていった瞬間に、目を閉じてしまえればいいのに。
そうすれば、あいつのいない絶望に打ちひしがれることなどなくなる。
戻ってきてくれる、なんて希望に縋る、醜い私を見ずに済む。
一人で大丈夫だと思わせて。
一人だったのだと、最初から一人だったのだと、私に言い聞かせてから出て行ってよ。
期待など全部無くして出て行ってよ。
もう望まないから。二人でいることなんてもう望まない。
だから、せめて、あなたのいる世界を壊していって。
「向こうの山に、うまそうな実なっとる木見つけてん。明日、いっしょに行こな」
「明日だけ?」
「・・・・明日もあさっても、ずっといっしょに行こう?」
あんたの口からは、私を傷つける言葉しか出てこないわね。
優しい嘘のふりをした刃を向け続けるあんたと、刃に貫かれて微笑む私と、いっしょにいなくなってしまえば、私はここから立ち去れるのに。
あのときあんたに拾われたのは、こんなに苦しい思いをするためだったの?
いつかSSにするかも。